- 取材
- 2015. 09. 11
【西岡卓志 × 千葉智之(HOT PEPPER Beauty Academy アカデミー長)】サロン経営で勝ち続けるために必要な事は?(前編)
前編/後編による全2回でお届け致します。
西岡卓志(以下:西岡)
最初にお伺いしたかったんですが、ホットペッパービューティーアカデミーはどういったキッカケで始まったのですか?
千葉智之(以下:千葉)
美容業界に携わらせてもらう中で、サロンのオーナーさんは、技術は凄いんだけど、経営スキルを勉強する機会がないという事が業界の課題だと感じていました。
これは構造的な問題なのかなと思っています。
若いころは職人として懸命に技術を磨き、ある日突然マネジメントをする、もしくは任されるようになる。
一方で、そのタイミングでマネジメントの役割やスキルを学ぶ機会が業界の中にあるかというと、それほど多くない。
つまり、出店戦略やターゲティングなどの「マーケティングスキル」、人の雇用・育成・組織づくりといった「マネジメントスキル」を知る機会がないまま、経営者やマネージャーになる方が多いと思うんですね。
そうすると、やっぱりどこかで行き詰る可能性が高くなる。
最初に難しい戦い方を選んでしまっている。
そういった、マーケティングやマネジメントはリクルートの得意な所であり、サロンを支援できる所なんです。
そこで3年前から動き出しまして、最初は一部の組織でテストマーケティングを行い、今は全国に広めて行っています。
西岡:
なるほど、そうだったんですね。
千葉:
また、教材はリクルートマネージメントソリューションズ(以下、RMS)という、企業向けに社員研修などを専門に行っているグループ会社の教材がベースになっています。
RMSでは1人1講座数万円の金額でやっているのですが、美容業界は個店が多いので、そういったセミナーや研修への大きな出費は難しいと考えました。
また、美容業界が発展することが私たちの未来に繋がりますし、美容業界で仕事をさせて頂いている私たちも美容業界に貢献したい。
そういった事から、意思をもって「無料」と決めて立ち上げています。
西岡:
そうなんですか、それは知らなかったです。
西岡:
確かに、オーナーが経営を教える事は難しいと思う。
大型サロンで働いていると経営に触れる事が出来るのですが、個サロンで働いていると経営に触れる機会がない。
千葉:
オーナーさんも誰かに経営を教えてもらったのかというと、必ずしもそういう訳でもない。
同じ様に飛び出して、苦労しながら何とか軌道に乗せたという人が多いと思う。
なので「経験」はあるけど、経営スキルを「体系的知識」として下の人に伝えるのが難しいのではないかと思います。
アカデミーでは、体系的な考え方のフレームワークを教える講座が多いです。
フレームワーク、すなわち考え方の”道具”を渡してあげて、セミナー内のワークで自分の立場に落とし込めるようにしています。
また、よりわかりやすくする為に、ビジュアルで伝えるようにしています。
西岡:
なるほど、いいですね。
良いか悪いかは別として、美容室は潰れにくく出来ていると思うんです。
だから、経営スキルがなくてもソコソコ出来てしまう 笑
今までの環境では、勉強しなくてもソコソコ出来てしまっていたんだと思う。
千葉:
なるほど。
先日、ある大手のサロン経営者の方がおっしゃられていて面白かったのが、
「美容業界は唯一、リーマンショックで影響を受けなかった業界。少々問題が起こっても髪は伸びるのでやっていける」と。
西岡:
そうなんですよ 笑
減価率低いですし、なにより現金商売というのが一番大きいと思います。
売掛、買掛がない。そうなると「バランスシート」が歪むことが無い。
簿記的な事を勉強しなくてもやれてしまう 笑
負債とかも真剣に考えなくても良い。
千葉:
家賃と人件費が払えればいい。のような?
西岡:
そうです 笑
ここまでが「資産」で、ここが「負債」って考えてない。
ある程度までいかないと影響してこないんですよ。
千葉:
複数店舗になると影響してきますか?
西岡:
複数店舗でも関係なくて、固定費のかかる施設を持っているか持っていないかだと思う。
例えば、店舗運営以外の研修用の施設とかの固定費があるとか。
だから、多くの美容室は、あんまり考えなくても上手くいってしまう。
千葉:
売り上げを上げない「施設」や「スペース」がほとんどないという事ですね。
西岡:
そうですね。
これ迄は経営スキルがなくても良かったんですよね。
しかし今は、顧客がどういった所にお金を使うかが分かりにくくなってきています。
そこに対して、どういったアプローチをしていくかのを戦略立てて行っているサロンが少ない。そういったサロンは難しくなってくるかなと思います。
千葉:
例えば、 日本の人口統計などの数字だけみれば、今後は40代以上を集客していかなければいけないよね?ってなるのですが、一方で「お店のウリ」がマッチするかどうかという問題があると思います。
アフロートではその辺はどの様に考えていますか?
西岡:
そこでいうと、僕らの場合は「1都3県」は関係ないと思っているんです。
自分達のサロンのエリアにおいて「人口の流入と流出」「世代間の入替り」がどれ位か?を、把握しているか重要だと考えてます。
もちろん、日本全国で考えた時には40代以上が増えています。
しかし「じゃあ40代を集客していこう!」というのは違うよね、と。
例えば、20代を中心に集客していたギャル系のサロンが、いきなり40代を呼び込もうってなったら、既にあるブランドのイメージを変えていくのは難しいし、20代の顧客はダサいから来なくなる。
大事なのは、どれ位の「 規模」でやっていくのかと、どこの「地域」でやっていくのかという事、何を「強み」にしていくのかを考える。
そして、どれ位の「お客様の数」が必要なのか?
それが全てかなと思います。
西岡:
人口の変化もあるとは思うのですが、それよりも顧客ニーズが変わってきている事が僕らには影響があるかと考えてます。
今までは「ファッションとデザイン」、これからは「ビューティとヘルス」。
そして今、美容室で成功している形は2種類あると思っています。
「デザイン先行型」のサロンか「ケア先行型」のサロン。
どっちを目指していくのか?どれ位の割合にするのか?が大切になってくると捉えています。
そこが決まると「どれ位の年齢層」の「どんなセグメント」の人達に、「どうアプローチ」していくかになってくると思う。
例えば、「デザイン先行型」でいくのならば、どのようにメディアに出ていくか?が重要かなと考えてます。
編集部:
デザイン先行型というと、まさに「アフロート」などのサロンだと思うのですが、ケア先行型のサロンっていうと、具体的にはどんなサロンの事を言いますか?
西岡:
今、多いのは髪質改善系ですね。
「より綺麗な髪にしたい」というニーズは実際に多いです。
僕らもこれ迄はデザイン先行でやってきたのですが、
本質的に考えるとソコに行き着くので、デザインとそこをあわせた所を目指していきます。
ホットペッパービューティーとかでも、人気のデザインを見ていると「ミニマルでまとまりのあるナチュラルなデザイン」が多いです。
その人に似合っていて髪の状態が良くなる、というような。
そういった感性によってくるんだろうと思います。
千葉:
確かに「本質キレイ」といったニーズは増えてますよね。
西岡:
女性のニーズは2種類あるって思ってるんです。
こういう女性になりたいという「憧れ」と、悩みを解消したいという「コンプレックスの解消」。
顧客の年齢が上がってくるにつれて「コンプレックスの解消」のニーズが強くなってくる傾向にある。
今後は、サプリメントだったり、エステとの連携なども必要かもしれない。
お客様によりよい「美」を提供できるような環境にしていくことが大切だと考えます。
千葉:
なるほど。
確かに業界TOPのブランドサロンは、西岡さんがおっしゃられている通りだなと思います。
もう少しマクロ的な観点で考えると、髪を切るということ自体は「贅沢品」ではなく「必需品」であると考えられています。
アパレルで例えるならばファストファッションのようなサロンが、業界全体の5~6割近くを占めているんです。すなわち、アフロートの顧客層というのは少数派になるんですね。
そして今後、全体的に所得の減少につれて「必需品」の顧客の割合が増えていくと考えます。
千葉:
業界の動向を調べていてわかってきた事は、23万件といわれているサロンの数は、ここ数年は微増が続いている。背景には、大量の「新規出店」と大量の「閉店」があります。
日本の人口は減っているのにサロンは増えているという、いびつな構造になっている。
これから我々は「2020年に反転してサロンは減る」と予測しています。
なぜかというと、
カリスマ美容師時代に美容学校に入った人たちの独立による新規出店が落ち着くからです。
そうして成り手が減り競争がさらに激化する事で、サロンの淘汰が始まると考えられます。
では、どういうサロンが生き残るのか?
ブランドサロンの差別化戦略で成功したサロン、コモディティーとして低価格でも損益分岐がクリアできるサロン。
一番難しいのは、「ブランドサロン」と「コモディティー化したサロン」の「中間のサロン」。
差別化も、価格競争も難しい。
彼らをどうサポートできるか?
1つは、サロンボード(予約・顧客管理システム)のようなテクノロジーで効率化してコストを下げる事。
もう1つは、ホットペッパービューティーアカデミーで開催しているようなマネジメントのスキル向上によってサロンの商品である、人の価値を高めていく事だと考えています。
—-後編「人の価値を高めるために必要な事とは?」に続く—-
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